海士町の「島まるごと図書館」という取り組みは、もともと図書館のなかった町のいろいろな施設に、図書館的な機能を持たせて、それらをネットワーク化することで、町全体を図書館にしようというものです。中心になったのは公民館の図書室ですが、その他は、地区の集会所だとか、病院の待合室だとか、フェリーの着く港の待合所だとか、学校の図書室だとか、飲食店だとか、民家だとか、そういうところの本棚を開放して、そこを「図書館だ」と言ってしまう。そんな取り組みだったようです。2007年に始まって、3年後には中央図書館ができます。その過程で蔵書整備も進められるのですが、それも町ぐるみで取り組まれたようです。いろんな方が関わって出来た図書館なのです。
中央図書館が出来てからは「分館」という位置づけになったそれぞれの施設では、病院であればお医者さんが、飲食店であれば店主さんが、民家であればその家の方が持っておられる本を読むことが出来るのですが、その他に、中央図書館の蔵書の一部が配架されていて、貸出もできるようになっています。どういう本を配架するのがよいのかは、中央図書館の司書さんの腕の見せ所。この方の家ならこんな本、このお店ならこんな本というのが、実によく考えられて配架されています。もし自分がこの島に移住してきて、自分の家を図書館の分館にしたら、いったいどんな本を配架してくださるのだろう、と考えるだけでワクワクします。
人口2千人ほどの町に、図書館が30館近く。100人に1館以上の割合であって、それぞれのところに、図書館の本だけで数百冊。私蔵の本をあわせるとその数倍の本があるのですから、町中に図書館があるというよりも、図書館の中に町があるようなところです。2泊3日の予定で上陸した私は、その間に1館でも多くこれらを訪問したいと思っていました。しかし、そこでちょっと困ったことに気付きました。ホームページによると、中央図書館の休館日は火曜日で、それ以外は10時から6時まで開館しているということが書かれているのですが、分館の開館時間については一切書かれていません。島に滞在するのは秋の3連休。病院の待合所だったら、ずっと閉館かもしれません。それでまず中央図書館に行って、分館の開館時間を尋ねることにしたのですが、そこで、どうやら島外から来た私が考えるのとは全く違うシステムなんだということが分かりました。対応してくださったのは館長さんでした。当時は大学の図書館に配属されていましたので、名刺を渡して、図書館の見学をしたい旨を伝えたところ、そこから分館に電話をしていただいて、「ここはいまおられます」「ここは夕方ごろならとおっしゃっています」というような案内をしてくださるのです。集会所などの場合は、朝、どなたかが鍵を開けて、夕方に締めるといったことをされているようなので、いつでも利用できるようなのですが、その代わり、日中は誰もおられません。せっかくなので、人がおられるところに行ってお話も聞いてみたいと思い、紹介された2軒の民家を訪ねることにしました。
1軒目は、島外から移住されて農業を営みつつ、リモートワークで生計を立てておられるご一家。2軒目は、夫さんを横浜に残して、小学生を連れて2年間の島留学をさせておられているお母さんでした。おそらくこれまでもに、いろんな方が来られて、その度に、どうして移住したのか、どうして島留学をさせようと思ったのか、繰り返しお話をされておられるのだと思います。お話されるのにとても慣れておられて、しかも自信に満ちた語り口。1軒目の方は海外で仕事をされた経験もあるとのこと。2軒目の方は、お子様に、いまこの年齢でしか経験できないことを経験させたいと思って、海外も含めていろいろなところを見て回ったが、最終的にこの島にしたとのこと。日本の中でも同様の取り組みをしているところはあったけれど、どこも役所の人が立派なパンフレットを見せながら説明してくれるところを、この島では、いま現に島留学をしている人が、雄弁に語ってくれるのを見て、ここに決めた、というようなことを仰っていました。昨日の記事に書いた隠岐島前高校と同じですね。
コミュニケーションの中心に図書館がある。これは、この島で何人かの方のお話を聞けばすぐに実感できることなのですが、これを読めば、島に行かなくても、それがどういうことかわかると思います。コミュニケーションの中心にあるということは、図書館が、人づくり、町づくりの中心にあるともいえます。移住してきた人が、図書館のない海士町なんて想像ができない、と仰るほど、この島では、図書館はなくてはならないものになっているのです。
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