私設図書館のことを語るのになくてはならないロールモデルは、島根県隠岐郡海士町の「島まるこご図書館」です。ここでご紹介する図書館は、海士町が運営する海士町中央図書館の分館ですので、図書館の分類でいえば「公共図書館」ということになるのですが、そんなことは大きな問題ではありません。
海士町の図書館の取り組みは、2014年に「Library of the Year」として表彰されました。以来、全国からこの離島に図書館関係者が訪問しているのだそうです。私が訪ねたのは2020年の秋。夏季休暇に行くつもりだったのが、新型コロナウィルス感染症の大騒ぎで延期していたのです。その頃もコロナは猛威を振るっていましたが、人々の生活にはちょっと落ち着きが見え始めていました。
図書館の話をする前に、海士町の話をしなければなりません。島根県沖に浮かぶ隠岐群島には、いわゆる「隠岐の島」といわれる道後と、その手前に、中ノ島、西ノ島、知夫里島からなる島前(どうぜん)諸島で構成されます。島前には、3つの島に、海士町、西ノ島町、知夫村の3町村があって、そのうち海士町に、島根県立隠岐島前高校があります。
この隠岐島前高校というのがただの県立高校ではありません。全国から、この島の高校に通いたいという子供たちが集まってきて、親元を離れて、3年間の寮生活をしながら通う高校なのです。島を訪れた日はこの高校のオープンスクールの日。全国からこの高校を見学しようという中学生が島を訪ねて来ていて、島中の宿泊施設は超満員。そんなこととは知らず、手当たり次第に電話を掛けたりしていたのですが、どこも予約が取れないので、3軒目ぐらいに「何があるんですか」と聞いたところ、そんなことを聞かされて、町の観光協会に泣きついて何とか宿をとってもらったというような次第。
そして当然のことながらフェリーもたいへんな混み具合。中学生と思しき少年・少女たちとその親御さんがわんさかと乗船していました。本土からは約3時間の船旅。そんな短時間にどんな子供なのか決めつけることは出来ないのですが、少なくとも、それぞれの郷里で何か問題を抱えて離島の高校に逃避するといった感じではありません。中には、1学年に何クラスもあるような学校で生徒会長をしていてもおかしくないような雰囲気の子供もいます。いや「子供」というより「青年」といった方がいいかもしれません。総じて、私が勤めている大学の学生よりも大人びている感じがしました。
あとで、この高校の寮にある図書館の分館も見学させてもらったのですが、そのときアテンドしてくれた高校生も、とてもしっかりした人でした。高校のある丘の坂道を降りたところの集落に、高校生のための交流施設のような学習塾のようなところがあるのですが、そこにも図書館の分館があるので見学しようとしたところ、たくさんの中学生が現役の高校生と話をしている真っ最中でした。中に入るのはちょっと遠慮させてもらって、遠巻きに見ていたのですが、話をする高校生も、聞いている中学生も、とにかく目が輝いている。自信に満ちている。先輩高校生のこういう様子を見て、自分もそうなりたいという憧れを持って中学生が入学してくる。そして、その入学した人がまた次の中学生を呼び込む。そんな構造が出来上がっているのです。
コミュニケーション能力というのは、このブログに通底するひとつのテーマですが、彼らのコミュニケーション能力は本当にすごい。それも、カネ勘定に汚れていない、純粋な、この島のコミュニティの中でより良く生きていくために必要な、そしてこの島のコミュニティをより良くしていくようなコミュニケーション能力だと思うのです。
高校生だけではありません。人口2千人ほどのうち、約2割ぐらいが移住者なんだそうです。実際に住んでいないので分かりませんが、お話を聞いている限り、田舎にありがちな閉鎖的なコミュニティではなく、本当に開放的で、移住者が温かく受け入れられている。そしてそのコミュニティの中心に図書館があるようなのです。
少し前置きが長くなってしまいましたが、次の記事で、この島で見たこと、体験したこと、思ったことを綴っていこうと思います。
高校の生徒数が減る→教員が削減される→物理の授業が出来なくなる→理系進学希望者が島外に進学するようになる→高校進学を切っ掛けに離島する家庭が増える→高校の廃校→人口の減少→フェリーの減便→生活不安からさらに人口が減る→医療崩壊、行政サービスの崩壊→町村合併→集団離島
そんな暗い未来を変えるために高校を変える。プロジェクトX張りのドラマがそこにある。そして、確かに高校は変わった。島も変わった。
この記事を読んで海士町に興味を持たれた方、ぜひ、この本を読んでから行ってみてください。
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