島根県の沖合にある隠岐群島のひとつ、中ノ島にある海士町で経験したことは、とても刺激的でした。自分もここに移住してきて、自分の家に小さな図書館を作ろうか、と半分ぐらい本気で考えました。結局は止めたのですが、それから3年が経って、こうしてブログにその時のことを書きながら、考えがぐるっと一周したような思いがします。
海士町は、本土からフェリーで3時間もかかります。高速船なら1時間ほどですが、1日1本しかなく、欠航しがちです。いままでの自分の生活空間からはかなり隔絶されたところです。移住するということは、いままで勤めていた会社を辞めることになります。家族で移住するなら家族も同様です。家族と離れて単身で移住するとしても、家族を説得しないといけません。親族に急なことがあっても、すぐに駆けつけることもできません。もちろん、自分に何か急なことがあっても、親族は駆けつけて来てはくれません。親しくしていた友人とも、日常的にリアルに会うことは出来なくなります。
他にも、移住しない理由なら事欠きません。隣の西ノ島には新聞の配達所がありますが、たぶん、朝刊を読めるのはお昼にフェリーが着いた後です。欠航すれば翌日になります。数年前から私は、月に一度は映画を観ると決めているのですが、それも松江か米子に出掛けて1日がかりで観ることになります。島に行った当時、私は地元のアマオケに入っていたのですが、移住となるとそれも辞めないといけません。
いやでも、もし移住となれば、そういうところが、また面白いところかもしれません。自分の家を図書館にするのだから、ネット版の新聞の契約をして、大判プリンターで印刷すれば、それで近所の人にも、その日の新聞を読んでもらえますし、新聞を口実に毎日来て下さる方もおられるかもしれません。大判プリンターがあればニーズもあります。高校生たちが何かポスターのようなものを作りたいと思ったときに、私のところに来てくれるかもしれません。映画だって、いま話題の映画はともかく、ネットの映画配信サービスの契約をして上映会でもすれば、それもコミュニケーションの切っ掛けになるかも知れません。アマオケのことも、そういえば、島に行ったときに、ヴァイオリンケースを担いでいる人を2回ほど見ました。「おやっ」と思ったのでよく覚えています。島でレッスンが受けられるかもしれませんし、3人集まれば簡単なアンサンブルはできます。そう考えれば、新聞の配達が遅いことも、映画館がないことも、アマオケを辞めなければならないことも、移住を面白くする要素にだってなりうることです。
結局、移住を躊躇った決定的な理由は、自分のコミュニケーション能力に自信がなかったからだと思うのです。このブログの最初の方でも書いているのですが、私には「コミュ障」なところがあって、ときに周りとあらぬ軋轢を生んできました。誰がわるいのかには関係なく、そういった軋轢の負担を一方的に背負い込んできました。そんな負のコミュニティをいったんリセットしたいという期待は私を移住へと誘うのですが、その一方で「どこへ行っても逃げ場はない」という諦めが、移住を躊躇させます。島内にある隠岐島前高校のことを書いた『未来を変えた島の学校』にはこんなことも書かれていました。
島には逃げ場がありません。…今よりも厳しい生活になります。今できていないのに、島に行ったら変わるとか、できるようになるという甘い考えでは、困ります。(p.106)
いまなら、会社でうまくいかなくても、どこかに逃げ場があります。誰も話してくれなくても、おカネを払えば「いらっしゃいませ」と声を掛けてくれる人がいます。そんな世界で息苦しい思いをしている自分が、そういう逃げ場もないところに移住なんて出来っこない。移住したからといって、この島でお会いした方のように、自信たっぷりに自分の考えを雄弁に語れるようになんてなれっこないんだ。そんな考えが、自分を狭い世界に押し込んでしまいました。
でも、こうして Cade & Library を作って、そこをコミュニケーションから解放されるアジールのような空間にしようなどということを考え始めると、また考えが変わってきます。
海士町は、島そのものがアジールだったのではないか。
島を訪れた当時の私は、もし島に移住したら、どうやって生活に必要なおカネを稼ぐのかを考えました。大阪の都心の、カフェやネイルサロン、雑貨屋などが立ち並ぶ小洒落た地区で、何人ものアルバイトを雇って成功しているカフェと同じようなものを、この島に作ることはできません。それは分かっているのですが、どうしてもそういう発想になってしまうのです。競争の中から一歩抜きん出て成功する。そんな発想です。
でも、島の発想は違う。カネ勘定から少し離れて、この島をどんな島にしたいのかというような、どこか青臭い話を真剣にできるコミュニティ。そんなコミュニティの中心に図書館があって、それを必要としている人に助けてもらいながら、自分も、自分の図書館を作ることを通じて、アジールの中で求められる存在になっていくことが出来る。そんなことを考えると、定年という、サラリーマン生活のゴールが見えてきた今、この島への移住は、あるいは現実的な選択なのかもしれないと思えてきます。
しかし、そこまで考えがまとまってくると、反対に、それならわざわざ、いままで自分の周りにあった人やものとの関係を断ち切って、島に移住する必要もないようにも思えてきます。自分は、いまいるこの場所で息苦しい思いをしてきました。私のほかにも、そんな息苦しさを感じている人はいると思います。その人たちに自分ができることは、島に移住することではなくて、いまいるこの場所に小さなアジールを作ることかもしれません。
ということで、島への移住を巡る考えは、ぐるっと一周しました。しかし、ここが最終到達点なのかどうかは分かりません。ここを通り越して半周すると、そこには移住というゴールがあるのかもしれません。でも、いまのところ Cafe & Library を作ることに傾注していて、とても移住を考える余裕がありません。Cafe & Library 構想が行き詰ったときに、再び検討の俎上にあがるのか。いや、できればその行き詰まりを克服して、構想を実現していきたいのですが。
0 件のコメント:
コメントを投稿