2025/08/28

左遷

 30年前の話ですが、私は転職していまの会社に勤めるようになりました。前の会社を辞めた理由は、上司が左遷されてきたからです。もちろん辞令に「左遷」と書かれているわけではないのですが、本人が自分は左遷されたと思っていて、それにたいする不満を私たちの前で態度に表すのです。失礼にも程がある。

 こんな事情で以前に勤めていた会社を飛び出して、いま勤めている会社に飛び込んできました。いまの会社で何度か人事異動を経験しましたが、前の会社でこんな経験をしていますから、これまで一度も自分が左遷されたと思ったことはありません。どの職場に行っても、その職場でいちばん仕事に対して情熱を持っている人と同じぐらいの情熱を仕事に注いできました。そうやって30年間勤めてきた最後の職場は、残念ながら左遷先でした。

 いまの職場では、非正規雇用の人が次々に辞めていきます。そのたびに「補充」人事が行われます。私や、私といっしょに厳しい勤務を乗り越えて退職していった正社員はマイノリティで、他の正社員による非正規雇用の人の扱いはとても粗雑です。この間、私は、4月に着任された新しい非正規雇用の人に仕事をしてもらうのに、タイトな説明資料を用意して膝詰めで説明をしたり、毎日やらなければいけない仕事であれば、数日いっしょにやることで、自分が退職したあともその仕事が継続的にできるようにしてきました。しかし、他の正社員は、ある人はだらだらとミーティングをするばかり、ある人はそれすらもなく、周りにいる非正規雇用の人に説明を委ねていて、自分はその内容について一切関知していない、という有様です。つまり、非正規雇用の人を手塩にかけて育てていない。だから、着任から数か月でその人がこの職場に見切りをつけて退職していっても、何も惜しくないのです。だから「補充人事」などということを平気で口にする。せめて「後任の人の採用」と言えないものか。

 非正規雇用の人の採用は、直接雇用であっても派遣であっても、人材派遣会社に頼っています。直接雇用の場合でも、紹介予定派遣という制度を使って、人材派遣会社を通じて募集を行っているのです。いま、どこでも人手不足と言われている中で、会社のニーズと働きたい人のニーズをマッチングさせるのはたいへんなことだと思います。そうやって苦労してマッチングした人が数か月で辞めていく。辞めていった人に問題があったわけではないのです。けれど、うちの会社からは「すぐ辞めるような人をマッチングした」などとクレームを言われ、「こんどはちゃんとした人を」などといわれる。私が人材派遣会社の社員なら、たとえ綺羅星のような人が応募してきたとしても、こんな会社とはマッチングせずに他の会社に紹介すると思います。

 正社員の人事についても、事情は同じだと思うのです。自分に人事権があるとして、前の正社員が中途退職したり病気休職したりしているところに、将来を嘱望される人材を回すでしょうか。むしろ、辞めても惜しくないような人材の左遷先として位置付けるのが落ちではないかと思うのです。自分もそうやって異動してきた。定年退職まであと2年半というところで、これまで何の経験もつながりもない部署に異動させられるというのは、それだけで限りなく左遷人事に近いと考えていいはずです。そこを、そうは考えずに、仕事に情熱を注いできたことが間違いだったのかもしれません。


2025/08/27

働き方改革

 36協定で定められている上限を気にしながら、例えば10時まで残業しても、8時でいったん退勤登録をするとか、それも「働き方改革」などと言われる前はこうではなかったのです。正直に10時で退勤登録して、だけど残業は8時まで、というようなことをしていた。それはそれでよくないことではあるのですが、少なくとも10時まで働いていたという記録は残すことができました。しかし、この会社ではそんなことが横行していたので、労基署が入り、そこを指摘されてからは、10時まで残業するときでもいったん8時なり9時なりで退勤登録をするということが慣行となりました。そうやって、雇われている方が「自主的」に36協定が守られているような外見を作ってきたのです。これは明らかにおかしい。法定労働時間でも法定休日でも36協定でも、それを守る義務があるのは雇う側であって、それが守られていないときに責任を問われるのは会社の方なのです。ところが、この会社ではそんなこともわかっていない人が課長になって部下の勤務管理をしているのです。課長になれば部下の勤務を管理しないといけないので、課長研修などの機会にそういうことを教示しないといけないはずなのですが、この会社の課長研修というのは、言っている本人も何を言っているのか分からないような「お偉方」の話を聞かせて根性を叩きこむだけなのかもしれません。

 繁忙期も過ぎて、少し余裕も出てきたある日、私は上長に呼び出されて、別室に連れていかれました。そこで上長は、前日、私がやっていた仕事を「自己満足のための無駄な仕事」と断じ「1年に1回しかない仕事のためにマニュアルなんかいらない」「そのとき誰かに聞いたらわかるんや」というのです。ここで私の尊厳は完全に打ち砕かれました。挙句に「36協定を守ることより大事な仕事はない」などといって、私に36協定を守らせようとする。おぞましい。こんな人が課長をやっているなんて、うちの会社はブラック企業なのか。

 この会社では、上長の言うように、引継資料なんて「自己満足のための無駄な仕事」なのです。どうせそんなもの誰も読んでくれません。それでも書かなければ気が済まない。ここで止めてしまったら、私は、実務を非正規雇用の人に押し付けて偉そう張るだけで仕事をしていると勘違いしているダメ正社員に落ちぶれてしまう。自己満足というのであれば、徹底的に自己満足を追求するまでです。

 繁忙期も過ぎたので、10時、11時といった残業はなくなりましたが、それでも残業は続いています。上長の恫喝以来変わったことといえば、退勤登録をしなくなったことです。自己満足のための無駄な仕事のために残業を付ける訳にはいきません。さりとて定時に退勤しているように偽るのは悔しい。退勤登録をしないのはせめてもの抵抗です。それで上長も何も言いません。それなら最初からそう言えばいい。「残業を付けるな」。もちろんそんなことを言ったことが労基署にばれたら完全にアウトです。そうやって自分が責任を取るようなことにならないように、という小賢しさだけは持っている。この会社で課長になるのはこういう小賢しい人間ばかりなのかもしれません。

2025/08/26

仕事は誰でもできるように

 いま私が配属されている部署は極端な例ですが、概して私の会社では、業務の標準化が出来ていません。業務マニュアルも業務引継資料も、ごく簡単なものしかありません。ないときもあります。正社員はどんな仕事でも出来ることが前提になっていて、引継などしなくてもすぐに後任者が仕事に就ける。そんな幻想が抱かれています。 勤めている間に何度か人事異動を経験しましたが、前任者から満足のいく引継を受けたことはほとんど皆無です。引継資料とは名ばかり。「この仕事は非正規雇用の人がやってくれているのでハンコを押すだけでいい」などということが堂々と書かれていたりします。

 私の場合は、後任者にこういう苦労をさせないために、どこの部署でも、着任早々から引継資料を作成することを常としてきました。書き起こした資料が100ページほど。これに参考資料を加えてインデックスを付け、フラットファイル1冊から数冊分の資料を作成して、ファイル1冊について半日の説明を3回程度行って引継をしてきました。

 それで引き継いだとおりにきちんと仕事をしてくれる人もいます。担当が変わればどうしても仕事のクオリティは劣化しますが、それで関係者に迷惑を掛けないようにしたい。人事異動はこちらの都合なのですから、そう思うのは当然だと私は考えてきました。しかし、そんな私の思いに反して、「新しい担当者が新しいやり方でやる」などと言って上長から引継をさせてもらえなかったこともありました。私のやり方が間違っていたとか、それで誰かに迷惑を掛けていたのなら仕方がありませんが、そうではない。さっきも言ったように、この会社では正社員はどんな仕事でも出来ることが前提なので、自分にしかできない専門性の高い仕事は忌み嫌われます。目の前にある仕事をやるためにいろいろ調べて、勉強もし、努力を積み上げて、高いレベルで仕事を標準化しようとすれば、「仕事は誰でもできるようにしとかないといけない」とお叱りを受ける。誰でもできるように引継資料を作成するのではなく、誰でもできるようなレベルで仕事をする、というのが会社の不文律なのです。これじゃ自分の職場でいちばん能力のない人に合わせて仕事をしなければいけない。せっかくの引継資料も活かされることはありません。その結果は惨憺たるものです。ただ誰もそれを問題にしない。こちらの耳には関係者からのクレームも入ってくるのですが、後任者も上長も馬耳東風。きっとクレームの内容も理解できていないと思われます。そのうちにクレームを入れたところで無駄だということが分かってクレームもなくなる。そんなことを何度か経験しました。

 さて、「そこはもう私がいられる場所ではない」という意思表示をして、そこから逃げ出す覚悟を決めた会社ではあっても、後任者が自分と同じような苦労をすることを是とは思えません。こんな闇残業、闇出勤を重ねなければ乗り切れない状況は再現するべきじゃないと思いますし、その繁忙の中で「自分はポンコツでここにいる価値はない」と毎日、自分を否定しながら過労自殺さえ脳裏を過ぎるような毎日を後任者に押し付けることは、何が何でも「否」です。一方で、後任者が自分の職責に無関心で、実務は非正規雇用の人に押し付けて、必要な仕事をせず、クレームの内容すら理解できずにとうとうクレームもなくなってしまうというようなことも是とは思えません。それで私にできることといえば、きちんと引継資料を作って、きちんと引継をする。後任者がどんな人かは分かりません。もしかすると自分の職責に無関心な人かもしれませんが、それでも作った資料は残りますから、いずれそれが「発掘」されて、心ある人が読んでくれれば、このどうしようもない職場をなんとか立て直す足掛かりになるかもしれない。繁忙期が終わって時間的には少し余裕がでてきました。この間の闇残業、闇出勤を全部つければ、もちろん労基法36条で結ばれた協定で定められている上限をはるかに超える残業になるのですが、もうそれは過去のこと。別にそれを労基署に訴えるつもりもありません。その上で、36協定で定められている上限を気にしながら…

すみません。ここ、とても辛くて筆が進みません。