2024/02/25

脱・コミュニケーション

 たまたまこれを書いているのが入学試験の季節だということもあって、入学試験の裏側の話を二つほど紹介しました。

 アルバイトで雇用した人に対して、仕事の意義や目的を説明して、関心や興味を持ってもらい、意欲的に仕事ができるようなガイダンスをする能力も、私は立派なコミュニケーション能力だと思うのです。こんなガイダンスができるという私の優れたコミュニケーション能力は、入学試験の安定的な実施に貢献していますし、受験生が安心して受験に集中できる環境を提供することにも貢献しています。けっして高くはない賃金で雇われているアルバイトの人が仕事に意欲的に取り組んでくれることにも貢献しています。設営作業にやってきたアルバイトの方が高齢の男性であっても、私ならきちんと説明して、間違いのないように仕事をしてもらえます。そんなことの出来ない他の職員から、あいつはコミュニケーション能力がない、と言われて、自分でも「オレ、コミュ障だからなぁ」と自虐しなければならないような立場に追い込まれなければならない理由はないはずなんです。

 こんな経験から私は考えました。現代社会におけるコミュニケーション能力とは、ものすごく単純に言えば「つるむ能力」と言えるのではないかと。仲間を増やす能力と言えば正しいようにも聞こえますが、むしろ、すでにつるんでいる人たちの仲間に入れてもらう能力、という方がより正しいように思えます。人から好かれる能力というのも半分は正しいのかもしれませんが、好かれる相手は立場の強い人でないといけません。いくら立場の弱い人のことを考えていろいろ気を遣っても「コミュニケーション能力が高い」と評価されることは滅多にありません。ましてや正しいことを主張するなんてことをしたら、たちまち嫌われて「コミュ障」のレッテルを貼られてしまいます。現代社会ではコミュニケーションが複雑化していて、それがストレスになっている、などということが言われますが、こう考えていくと、コミュニケーションは「複雑化している」のではなく「歪んでいる」といえます。私は、現代社会以外の社会を知りませんので、もしかすろと古代や中世においても、コミュニケーションとはこういうものだったのかもしれません。ただ、これを「歪んでいる」といわれると都合のわるい人が、いつの社会でもどの組織でも、多数派であったり、権力を持つ中心であったりするわけですから、「複雑化」などというオブラートに包んだ言い方をしているだけなんではないでしょうか。

 私たちは、幼い頃から、「お友達をたくさん作りましょう」とか「お友達を大切にしましょう」などと躾けられてきました。友達が少ないのを不幸だと考えて生きてきました。友達とうまくコミュニケーションが出来ないことを「障害」として捉えるような社会を作ってきました。単純にお友達を増やすなら、既存の派閥に「つるむ」ことは効率的です。自分が独自に派閥を作って、そこで自分を主張し、そこに友達を引き入れていくのは、非効率なだけではなく、既存の社会や組織にとってはリスクであり「和を乱す」行為として激しく排除されることだってあります。多数派に「つるむ」ことは、自分が生きるために必要な資源の分配をより有利にするための必須の条件です。誰もが本能的にこれをやっています。それが出来ないのは「障害」あるいは精神的な「病気」なのです。普通ではないのです。

 でも、本当にそうでしょうか。
 そうまでしてつるまないといけないのでしょうか。
 つるまない生き方というのはないのでしょうか。

 こういう煩わしいコミュニケーションから解放される「脱・コミュニケーション」は、私が考えている「Cafe & Library」の重要なコンセプトになると思います。カフェや図書館をコミュニケーションの場として捉えることを否定するわけではないのですが、そこに無理にコミュニケーションを持ち込んでくるのではなく、まず「既存のコミュニケーションから解放されたい」と思う人に、誰からもコミュニケーションを強いられることのない時間と空間を提供するのが、この「Cafe & Library」だと私は思っているのです。




松本卓也 著. 2019. 『心の病気ってなんだろう? 平凡社.

著者の「過剰なコミュ社会 あえて「自閉」を」と題する新聞投稿(2022.2.25朝日新聞)を読んで興味を持って手にした本です。過剰なコミュニケーションが求められる社会で、自分を守るためにあえて自閉することを是とする内容です。心の病気で生じる障害を、その人の問題として捉えるのではなく、その人が受け入れられる社会ではないという社会の側の障害として捉える姿勢が貫かれています。心の病気を持つ人の悩みや、その人が置かれるであろう難しい状況にについて、首肯することの多い本でした。

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